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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)3066号 判決 1975年10月28日

原告 北浦タツヱ

被告 殖産住宅相互株式会社

右訴訟代理人弁護士 小関親康

主文

一、別紙目録記載の土地を競売に付し、その代金より競売手続費用を控除した金額を一一分し、その一を原告に、その余を被告に配当することを命ずる。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

1.被告は原告に対し、別紙目録記載の土地(以下本件土地という。)を別紙図面(一)のとおり分割し、同図面の赤斜線部分の土地を明渡せ。

2.訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二、被告

1.原告の請求を棄却する。

2.訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1.本件土地は、原告と被告の共有であり、その持分の割合は、原告が一一分の一、被告が一一分の一〇である。

2.ところが、被告は昭和四一年二月ころ原告に無断で本件土地を整地し、原告の持分を侵奪したので、原告としてはもはや被告との共有関係を維持することができなくなった。

3.そこで、原告は、民法二五八条に基づき共有物たる本件土地の分割を求める。

なお、分割方法としては現物分割の方法により本件土地を別紙図面(一)記載のとおり分割し、同図面の赤斜線部分の土地を原告の所有地とされるのが相当である。

4.よって、原告は被告に対し、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二、請求の原因に対する被告の答弁と主張

1.答弁

請求の原因1の事実は認めるがその余の請求原因事実は否認する。

2.主張

(1)被告は、昭和三八年九月中旬ころ原告と本件土地の分割について協議した結果、両者間において(イ)被告が本件土地を含む被告買収地を造成しても、原告において異議はない。(ロ)原告の持分である一一分の一に相当する土地を分割して、本件土地の地番で残すことにする。(ハ)右分割により原告に残す土地については、被告がその位置、形状を自由に決定してよく、この決定に原告は何んら異議を申出ないことにする、との合意が成立し、被告はこの合意に基づき別紙図面(二)のとおり宅地造成を行ない、原告が右分割協議により取得すべき土地(六坪一八二)を同図面の赤線で囲んだ部分に残した。

右にみたとおり、本件土地については既に原、被告間に協議による分割が有効に成立しているから、原告の本訴請求は失当である。

(2)仮りに、右主張が理由のない場合、本件土地の分割方法について次のとおり主張する。

まず、現物分割は、本件土地の地形、位置、面積、持分割合等からして不可能である。けだし、細長い長方形の土地に分割されて利用度、売買価値は著しく損なわれるからである。

次に、代金分割も不可能である。けだし、被告は本件土地の持分一一分の一〇を既に第三者に売却ずみであるため(ただし、その持分の移転登記手続は未了であり、その共有登記名義は現在も被告にある。)、右被告名義の持分権は実質的には第三者所有のものであり、他人への売却を相当とせず、かつ売却しても、地形、面積、持分割合等からして相当の価格で買われる程の利用度はないからである。

したがって、本件土地の分割方法としては価格賠償による債務負担分割が最も妥当であり、被告が適正な対価を支払って原告の持分を譲受けることによって分割するのが相当である。

三、被告の主張に対する原告の答弁

被告の主張はすべて争う。

第三、証拠関係<省略>

理由

一、本件土地が原告と被告の共有であり、その持分の割合が原告が一一分の一、被告が一一分の一〇であることは、当事者間に争いがない。

二、原告は、本訴において共有物たる本件土地の分割を求めているが、これに対して被告は、昭和三八年九月中旬ころ原、被告間において本件土地の分割について協議が成立したから、原告の本訴請求は失当である旨主張するので、まずこの点について判断するに、右主張に沿う証人岩崎良平、同亀井清の各証言、右各証言により成立を認めうる乙第一号証の一、証人澤井孝の証言により成立を認めうる乙第一号証の二及び成立に争いのない乙第二号証は、成立に争いのない甲第四、五号証の各一、二、同第一三号証の一ないし五、同第一四、一五号証と対比して、いずれもにわかに措信し難く、他に右主張事実を認めるに足る証拠がないから、被告の右主張は理由がないものといわなければならない。

かえって、前記甲第四、五号証の各一、二、同第一三号証の一ないし五、同第一四、一五号証及び証人澤井孝の証言を総合すれば、被告会社は、昭和三八年八月から同年一二月にかけて四、五回にわたり代理人南鶴松、名和一則らを通じて原告に対し、被告会社が本件土地を造成することの承認を求めるとともに、原告の持分を買取りたい旨申出たけれども、原告がこの申出を頑として受け容れず、自分の持分はそのまま現地に残しておいてもらいたいとつつばねたため、本件土地の分割についてなんら具体的な協議が成立するに至らなかった事実が窺われるところである。

三、そこで、本件土地の分割方法について按ずるに、原本の存在及び成立について争いのない甲第一号証、成立について争いのない甲第三号証、証人岩崎良平の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、本件土地は公簿上地目が山林、地積が二畝八歩(二二四・四平方メートル)となっているが、現況は宅地であり、実測面積は約八〇坪(二六四平方メートル)であること、本件土地は、被告が分譲のため造成した宅地内の一区画であり、同地上には既に被告からその持分一一分の一〇を譲り受けた訴外宮崎政次が居住用建物を建築して所有していること、本件土地を現物分割した場合、原告がその持分に応じて取得する土地はわずかに約七・三坪(二四・〇九平方メートル)にしかすぎず、この面積では宅地としては勿論、本件土地付近では有効な利用方法が全く考えられないこと、以上の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実関係からすれば、本件土地は、現在の位置、環境、利用状況等からして宅地としての利用が図られるべきであり、したがって本件土地を分割するにあたっては、本件土地の宅地としての価値が損なわれることのないよう十分考慮さるべきである。

さて、今もし本件土地を持分の割合に応じて現物分割した場合、本件土地は七・三坪の土地と七二・七坪の土地に細分されることになるが、右認定のように七・三坪の土地では宅地としては勿論、他に特に有効な利用方法も存しないのであるから、この分割方法によったのでは経済的効用の乏しい土地を産み出すことになり、本件土地の有する宅地としての価値をいたずらに損ねることになるものといわなければならない。したがって、本件土地は、現物分割によって著しくその価格が損なわれるおそれがあるものと認めるのが相当であるから、本件土地の分割方法としては、本件土地全体が宅地として有効に利用されることを期するため、民法二五八条二項に基づき本件土地の競売を命じ、その売得金を持分により分割するのが相当である。

なお、被告は、本件土地の分割方法として価格賠償による分割を主張しているが、民法二五八条二項によれば、裁判による分割は、現物分割を原則とし、これが不可能の場合かあるいは分割によって著しくその価格を損するおそれがある場合には、その競売を命じて価格分割を行なうことになるのであって、価格賠償の方法は明らかに認められていないのであるから、右主張は採用できない。

四、以上の次第であるから、原告の、本件土地の分割を求める本訴請求は右認定の限度において理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木村修治)

<以下省略>

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